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第2回:便失禁という病気と向き合う/ 医療法人三慶会 指扇病院 副院長、排便機能センター長 味村俊樹先生

便失禁は決して珍しい病気ではありません

便失禁は、日本ではまだあまり広く知られていない病気です。けれども、海外では70歳以上の高齢者の7、8人に1人が便失禁を抱えているというデータがあり、日本でも患者さんの数は500万人以上とみられています※1。便失禁は決して珍しい病気ではなく、加齢や出産など、様々な原因で起こる現象です。

便失禁の症状で受診する患者さんは、今のところ女性が多く約8割を占めています。ところが統計データでは、男女半々の割合で存在することが判明。男女のどちらでも起こる、ごく一般的な症状なのです。

便失禁が起こる主な原因は、内・外肛門括約筋の収縮力の低下、分娩時の肛門の損傷といわれ、これらの原因が約7割を占めています※2

内肛門括約筋は、私たちが「無意識のうちに肛門を締めている」筋肉のこと。内肛門括約筋の収縮力が加齢などによって低下すると、いわゆる「お尻の締まりがゆるい」状態になり、直腸内の粘液や少量の便汁が外に漏れ出してしまうというわけです。「知らないうちに、パンツが汚れていた」と訴える患者さんは、この筋肉が衰えている可能性があります。

内肛門括約筋は意識して収縮させることができない筋肉のため、残念ながら骨盤底筋体操など、いわゆる肛門筋肉のトレーニングで鍛えることはできません。こうした体操は決して無駄ではありませんが、老化などで生じる内肛門括約筋の筋力低下を防ぐのは難しいでしょう。

もう一つの外肛門括約筋は、「意識して締めることのできる」筋肉ですが、年齢と共に筋力が落ちると収縮力は弱まります。すると、便意を感じた時に肛門を十分に締められないので、トイレまで間に合わずに便を漏らしてしまうのです。

分娩時の肛門の損傷は女性の受診率の高さと関係しているかもしれません。いずれの場合も、便失禁の原因は一つに絞ることはできず、いくつかの要因が重なって起こるということがわかっています。

改善への第一歩は、専門医への受診

便失禁の原因はいくつかの要因が重なっているケースが多いため、患者さんお一人お一人の原因が何なのか、またそれぞれの症状をじっくり見極め、対処する必要があります。

専門医は問診によって、便失禁が起こる回数、量、排便後に起こるか・排便と関係なく起こるのか、下剤の使用の有無など、患者さんがどんな症状に悩まされているかをしっかり把握します。さらに、現在またはこれまでにかかった病気、出産の有無などを聞かせていただき、ときには専門的な検査を交えて、原因を解明し、最も適切な治療法を探し出していきます。

ですので患者さんご自身でご自分の症状を判断するのは難しく、だからこそ専門の医療機関に相談していただくのが改善への第一歩だと言えます。

治療の選択肢が広がっています

便失禁の治療は、大きく分けると2つあります。1つめは、患者さんの体への負担が少ない、「保存的療法」と呼ばれているものです。

患者さんによって症状の異なる便失禁ですが、一般的に、軟便もしくは下痢気味の方が多く、高齢者の場合、かかり付けの病院で処方されている下剤の飲み過ぎで下痢を起こしていることもあります。そこで、お腹の緩さの原因を丁寧に探りながら、便がバナナより多少固めになることを目指して下剤の量を加減したり、便が固くなる薬を飲んでもらいます。

また、日常生活で排便した後に便失禁が起こるという場合もあります。その場合は、食事の後は必ずトイレに行くなど、排便習慣を指導することもあります。他にも、外肛門括約筋の筋力が低下している患者さんには、筋肉を締める訓練であるバイオフィードバック療法を行ったり、脊椎損傷の患者さんにはアナルプラグを用いたりと、さまざまな選択肢を検討していきます。このような保存的治療で、便失禁の患者さんの約7割が改善しています※3

保存的療法で改善できなかった場合、2つめのステップが「外科的療法」と呼ばれるものです。外科的療法には括約筋形成術や人工肛門、順行性洗腸法(盲腸皮膚瘻術)などの方法がありますが、身体への負担の大きさやボディイメージへの問題から、これまであまり浸透していませんでした。

2014年4月に保険適用となった仙骨神経刺激療法(SNM)という治療法は、外科的療法でありながら、保存的治療と同じくらい体への負担が少なく、それまで保存的療法で効果の見られなかった患者さんにとって、新しい可能性が開けたのではないでしょうか。

患者さんへの医師からのメッセージ

便失禁は風邪や高血圧と同じように、特別な病気ではありません。診療の際は、「便もれに困っていますか」「いつ頃から?」「どのようなときに起こるか?」などを訊いて、原因にアプローチしていきます。そういう点でも、一般的に知られているその他の病気の診断と変わりません。

便失禁には、なかなか相談できないデリケートな部分もあるかもしれませんが、特別に扱わず、ごく自然に付き合うことが大切だと考えています。便失禁の専門医は、患者さんの悩みを受け留め、患者さんの症状に寄り添って治療をしていきます。どうかリラックスして、専門医の扉をたたいてください。

【出典】
※1、※2 味村俊樹, ほか:本邦における便失禁診療の実態調査報告 -診断と治療の現状-.日本大腸肛門病学会誌 65(3):101, 2012
※3 福留惟行, 味村俊樹, 小林道也:排便障害専門施設における便失禁に対する診療の現状.日本大腸肛門病会誌 65:539,2012

総監修医療法人三慶会 指扇病院 副院長、排便機能センター長 味村俊樹先生