便失禁の中で一番多い*1とされている原因です。肛門を締めようと努力しなくても、無意識のうちに肛門を締めてくれている筋肉が内肛門括約筋ですが、この筋肉による肛門を締める力が加齢などによって弱くなると、少量の漏出性便失禁を生じます。
自然分娩で出産した際に肛門の筋肉(肛門括約筋)や関連する神経がダメージを受けると、便失禁、特に切迫性便失禁の症状が現れます。ほとんどの場合は分娩直後に症状が現れますが、何年もたってからという場合もあります。自然分娩で出産した人のうち約3%*2が便失禁を経験するという報告もあります。
直腸がんの手術では、直腸やS状結腸を切除しなければならず、場合によっては肛門括約筋の一部も切除します。そのため便を正常にためておくことができず、また肛門を締める力も低下するので、便失禁の症状が現れることも少なくありません。
痔瘻や裂肛といった肛門近辺の病気の治療のために、肛門括約筋をあえて切らなければならないケースがあります。そうした場合、肛門を締める力が低下して便失禁などの症状が現れることがあります。
怪我などによって脊髄を損傷してしまった場合や、髄膜などの病気によって便意を伝達する神経がダメージを受けた場合などに、便失禁の症状が現れることがあります。
一般的には排便に関連して腹痛や腹部の不快感を生じる病気ですが、切迫性便失禁の原因になる場合があります。肛門括約筋にも神経にも問題はありませんが、直腸の知覚過敏によって過剰な便意を催すために切迫性便失禁の症状が現れます。
上記のような明らかな原因がなくても便失禁になることがあり、その場合は特発性(とくはつせい)と分類されます。
*1 味村俊樹 ほか:本邦における便失禁診療の実態調査報告-診断と治療の現状-.日本大腸肛門病学会誌 65(3):101, 2012
*2 坂口けさみ ほか:分娩後の便およびガス失禁発症の実態と関連要因について:母性衛生46(1)185, 2005.