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第7回:生活習慣の改善方法と自宅でできる簡単トレーニング/ 藤田保健衛生大学病院 勝野秀稔先生

食事と排便習慣への心配りが大切

日常生活で気を配って頂きたいのが食事と排便習慣ですね。

食事の基本は、「下痢になりやすい食べ方を控える」こと。そのため
■食物繊維が多く含まれる食べ物を摂る
■過度な飲酒を控える(1日に何本ものビールを飲むのはNG)
■腸の蠕動運動を刺激するコーヒーなどのカフェイン類の摂取を少なめにする
■動物性脂肪(脂身の多い肉など)を控えめにする
を心掛けてください。

排便習慣については、どんなとき漏れるか・何回くらい漏れるか(頻度)・どれくらい漏れるか(量)について、自覚することが大事です。ご自身の傾向がわかれば、「朝食の後は必ずトイレに行く」「催したら我慢せずに、すぐにトイレへ行く」「夜中に漏れやすいから、寝る前にトイレで排便を済ませる」などの対策を立てることができます。そして、こうした対策を日常の中で定型化できると、患者さんも必要以上にナーバスになることなく、日常生活を過ごすことができます。

患者さんお一人お一人にライフスタイルがあり、便失禁の症状も異なります。だからこそ、ご自身でコントロールすることのできる食事と排便習慣を押さえておく必要があると思います。

便失禁に直接影響する肛門括約筋の衰え

骨盤内の臓器を支えている骨盤底筋群は、年齢と共に衰えていきます。加齢に伴い骨盤内の臓器(膀胱や直腸など)を支えられなくなるため、臓器が下がりやすくなってしまい、直腸に便を溜めておく貯留能の低下につながります。元々筋肉量の少ない女性には、特にその傾向があります。

直腸で便を溜める力が弱くなったとき、便が漏れるのを防ぐ最後の砦は「肛門」です。そのため、肛門の開閉をコントロールしている肛門括約筋が弱っていると、肛門が緩んでしまうため便失禁が起こりやすくなります。また、肛門括約筋のダメージは、便失禁にダイレクトに影響するといえるでしょう。

肛門括約筋がダメージを受ける原因には、加齢、痔の手術の後遺症、出産時の損傷、排便時のいきみなどが挙げられます。

このうち、加齢や出産時の損傷のように自分ではどうにもならない要因とは違い、自覚のないまま習慣的に行ってしまう「いきみ」は、すぐにやめることができるものです。思い切り踏んばらなければ便が出ないようなときは、無理に出そうせず、次のタイミングを待ちましょう。また、トイレで新聞や漫画を読む習慣のある方も同様に、長い間続けているうちに、肛門括約筋を衰えさせかねません。トイレの時間は、短いほうがお尻のため。便失禁の症状が出たあとも、これは守ってください。

さて、このようにお尻を締める上で重要な役割を担っている肛門括約筋ですが、出産や痔の手術などをきっかけに異常が起こらない限り、多くの方々は自分の肛門括約筋がどんな状態にあるのかを自覚できていません。そのため、多くの方は便失禁が起こってから、ご自身の肛門括約筋のダメージに気が付くことがほとんどです。

肛門括約筋には、意識して収縮させることのできる外肛門括約筋と、無意識のうちにお尻を締めている内肛門括約筋があります。このうち外肛門括約筋は自分の意思によって締めたり緩めたりすることが可能な筋肉のため、一度衰えてしまっても鍛え直していくことができます。

外肛門括約筋を鍛える「骨盤底筋体操」

便失禁はさまざまな要因が絡まり合って発症するため、原因が一つということは基本的にありません。そのため、便失禁の原因を探り、適切な治療法を選択することが重要です。意識的にコントロールできる外肛門括約筋の衰えが原因の一つと考えられる場合は、肛門括約筋を鍛える「骨盤底筋体操」によって、便失禁の症状改善につながる場合があります。「骨盤底筋体操」によって外肛門括約筋を鍛えると、便意を催してから排便を我慢できる時間が長くなります。その結果、便意を催してからトイレまで我慢ができるようになり、便失禁の頻度を減らすことが可能となります。

食中毒などでひどい下痢状態にあるときは、誰だってトイレまでもたず下着を汚してしまうんじゃないかと心配になりますよね。便失禁の患者さんは、それが軟便であってもコロコロ便であってもトイレまで間に合わないことが多いのですが、外肛門括約筋の力が回復するにつれて、「間に合わなくて漏れてしまった」というケースが減少します。

ご自身が少しずつでも改善の手応えを感じられたら、気持ちが明るくなり、やる気も湧いてくるのではないでしょうか。そうやって、患者さんご自身が自覚的に便失禁に向き合っていけるという意味でも、「骨盤底筋体操」は効果的なトレーニングと言えます。もちろん、便失禁はさまざまな要素が絡み合って発症しますので、まずは専門の先生を受診して便失禁の原因を探り、それぞれの患者さんにあった治療の方針を立てていくことが重要です。

ちなみに、骨盤底筋肉群の衰えで起こる尿失禁の場合も、骨盤底筋体操をするように患者さんに勧めることがあります。たまに「便失禁の体操と尿失禁の体操はちがうのですか?」と尋ねられることがありますが、同じものです。

「骨盤底筋体操」には様々な方法がありますが、その一例をご紹介しましょう。
① 強い力で肛門を5秒締めた後、10秒弛緩させる。これを10回繰り返します。
② 次にできるだけ素早く肛門を締める動作を10回行います。
③ そして、軽めに肛門を10秒締めて、10秒弛緩させることを10回繰り返します。
時間を見つけて、1日に5セットを目標に日々の生活に取り入れて行きましょう。

上記の回数分行うのが難しいという方は、徐々に回数を増やしていければ問題ありません。体操は即効性があるものではなく、ダイエットと同じように継続してこそ効果が出るもの。最低1カ月くらいは様子をみて、気軽に取り組んでいきましょう

自分でできる改善法~患者さんへのメッセージ

骨盤底筋体操で効果が出ている患者さんは、食事や排便習慣にも気を配るなど、積極的に治療に取り組んでいる方が多い印象があります。もちろん、どなたにでも効果が出るというものではないので、まずは専門の医師に診てもらい、骨盤底筋体操で症状が改善する可能性がある場合は試してみる価値があると思います。「自分自身の努力で便失禁の症状を改善できるかもしれない」という意識を持って取り組んでいると、やはり良い方向に向かうのではないでしょうか。

日常生活にはさまざまなストレスがあり、その中で便失禁を抱えながら生活するというのはとても大変なことだと思います。だからこそ、お金もかからず、いつでもどこでもできる骨盤底筋体操に一定期間でもチャレンジしていただくのは、価値があると考えています。

すぐに効果が出なかったとしても、少しでも改善できればラッキー!と、気軽な気持ちで、決してご自分を責めたりせず、ぜひ継続して行ってみてください。

総監修医療法人三慶会 指扇病院 副院長、排便機能センター長 味村俊樹先生