ひとりで悩まないで
監修:旭川医科大学 腎泌尿器外科学講座 准教授 橘田岳也 先生
どんな病気なの?
過活動膀胱とは、排尿を十分にコントロールできない状態をいいます。腹痛や頭痛、嘔吐などと同じように、あくまでも症状を指していますが、体のどこかにトラブルがあるために「急に我慢できない尿意が起こる」、「何度もトイレに行きたくなる」、「急に我慢できない尿意が起こり漏らしてしまう」のであり、そういう意味では「病気」といえるのです。
大きく分けて以下の3つの症状がみられる場合は過活動膀胱の可能性があります。
尿意切迫感
おしっこをしたくなったら我慢できない状態を「尿意切迫感」といいます。多くの場合、急におこるので予測することは困難です。おしっこを我慢してだんだん強くなる強い尿意とは異なります。
頻 尿
おしっこの回数が増えた状態を「頻尿」といいます。頻尿には「昼間頻尿」と「夜間頻尿」があります。
●昼間頻尿:起きているときに8回以上おしっこに行く状態を「昼間頻尿」といいます。
●夜間頻尿:寝ているときに1回でもおしっこに起きて行く状態を「夜間頻尿」といいます。実際にお困りになるのは2回以上の場合と思われます。
切迫性尿失禁
尿意切迫感があってトイレに行こうとしたものの、間に合わず漏らしてしまうことを「切迫性尿失禁」といいます。
なぜ起こるの?
神経の病気(脳血管障害、パーキンソン病、脊髄損傷など)が原因となる場合や加齢や原因が特定できない場合など過活動膀胱になる原因は様々です。
●前立腺肥大症
前立腺が肥大しおしっこが出にくい状態が続くと、おしっこをなんとか出そうと膀胱に負担がかかります。この状態が続くと、膀胱の筋肉が傷み、少しの刺激で過敏な反応をするようになり、過活動膀胱が起きます。
●神経系の障害
脳血管障害、パーキンソン病、多系統萎縮症、認知症などの脳の神経の病気や、脊髄損傷、多発性硬化症、脊髄小脳変性症、脊髄腫瘍、頸椎症、後縦靭帯骨化症、脊柱管狭窄症などの脊髄の神経の病気により脳と膀胱の筋肉を結ぶ神経回路にダメージを受けた場合などに、過活動膀胱の症状が現れることがあります。
●加齢、生活習慣病
膀胱機能の変化が原因となり、過活動膀胱の症状が現れることがあります。
●その他の原因
上記のような明らかな原因がなくても過活動膀胱になることがあり、その場合は特発性(とくはつせい)と分類されます。
排尿のしくみは、どうなっているの?
脳、神経、筋肉が連動して、排尿をコントロールしています。
過活動膀胱について知る前に、まずは人間の体内で行われている排尿のしくみを理解しておきましょう。
腎臓で休むことなく作り続けられている尿は一時的に膀胱にためられます。膀胱には300~500mlの尿をためることができ、膀胱が尿でいっぱいになってくると、神経を通じて脳に伝達し、「トイレに行きたい」と尿意を感じさせます。それしトイレに行き排尿の準備が整うと、脳から指令が神経を通じ発せられ排尿がおこなわれます。
膀胱がいっぱいになることによって尿意を感じたり、その尿意をコントロールするのに欠かせないのが神経の働きです。膀胱の感覚を脳に伝え脳や脊髄から膀胱に指令を送る神経が、排尿のプロセスにおいて重要な役割を果たしています。つまり、この神経を通して「伝達」がうまく伝わらなかったり、また指令が伝達されても筋肉が正常に機能しないと、排尿のトラブルが起こります。過活動膀胱もその一つになります。
悩んでいるのは、どんな人なの?
40歳以上の男女の8人に1人が、過活動膀胱の症状をもっていることが、知られています。年を取るにつれて、症状を持っている人は増えていきます。今の人口統計では、1,000万人を超える人が、症状を持っているとされています。
過活動膀胱の年齢別・性別有病率
出典:本間之夫ほか:日本排尿機能学会誌:14:266-277, 2003